目次
労働法とは
労働法とは、一言でいえば、労働者を守るための法のことです。
もっとも、「労働法」という名の法律があるわけではありません。労働法は、働く人(労働者)に関する様々な問題に対処するための法律を総称したものです。労働条件の最低基準を定める労働基準法を中心に、賃金の最低基準を定める最低賃金法、仕事が原因で怪我したり病気をしたりしたときのための補償を定める労働者災害補償保険法、職場の安全や衛生面でのルールを定める労働安全衛生法、職場における男女平等について定める男女雇用機会均等法など、が労働法の代表的な法律です。また、最近では、労働契約に関するルールを定める労働契約法が作られ、解雇を制限するなど重要な役割を果たしています。
以上のとおり、労働法は労働者を守るためにそれぞれ作られ、労働者の権利を明確にして、労働者と会社との関係を規律する役割を果たします。
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労働者とは
会社にはいろいろな人が働いています。正社員だけでなく、アルバイトやパートという働き方もあります。一般に、正社員に比べ、アルバイトやパートの労働時間は短く、任される業務も違います。さらに、契約社員といった期間を限って雇用される労働者もいます。
しかし、労働法では、社員、アルバイト、パートといった区別をしていません。それぞれが「労働者」として平等に扱われることになっています。労働法は、職場での身分や従事する業務に関係なく、労働者に対して平等に適用される法律です。例えば、アルバイトでも、一定期間のうち一定時間働けば、有給休暇をとる権利がもらえます。
以上のとおり、労働法によって、労働者は働き方によって差別されず、働き方に応じ平等の扱いを受ける権利があるのです。
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職場でトラブルが起きたら
労働法で労働者が守られているとしても、実際に職場でトラブルが起きた場合に、労働者が相談する行政機関や、会社との関係を調整してくれる行政あるいは司法機関がなければ、労働者は泣き寝入りすることになってしまいます。
そこで、労働者の権利を救済するために、労働者が相談することができる機関や、会社との関係を調整してくれる制度が用意されています。
まず、実際にトラブルが生じたら、厚生労働省が各都道府県の労働局に設けている「総合労働問題センター」に行って相談することができます。
さらに、専門家で構成されている「紛争調整委員会」によって、紛争解決のあっせんを受けることができます。「労働委員会」という行政機関のあっせんも受けることができます。
しかし、上記の方法で紛争の解決ができなければ、最終的には裁判所で問題の決着を図ることになります。
2006年4月から、裁判官と専門家による「労働審判」により解決するという制度が始まっています。労働審判は、通常の裁判に比べ、かかる時間も短く、柔軟な解決もできます。そういう利点があることから、労働審判には大きな期待が寄せられています。
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給料の支払い方のルール
給料の支払い方には、労働基準法で以下の5つのルールが定められています。
- 通貨で支払わなければならない、というルールがあります。
- これにより、現金ではなく、現物による支給で給料を払うのはできないのです。
- 直接支払わなければならない、というルールがあります。
- 未成年者の場合でも、親が代わりに給料を受け取ることは禁止されています。
- 全額支払わなければならない、というルールがあります。
- 給料を分割で払うことなどは禁止されています。
- 毎月1回支払わなければならない、というルールがあります。
- 今月の給料は払えないから来月まとめて払うなどということはできません。
- 一定期日に支払わなければならない、というルールがあります。
- 給料日が決まっていなければならないということです。
要するに、給料は、毎月1回一定期日に全額を直接通貨で支払わなければならない、ということになります。労働者にとって最も大切な給料が確保されるようルールによって守られているのです。
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給料の額に関するルール
労働者を保護するために、給料の最低限度額が定められています。
最低賃金法という法律により、給料の最低限度額が定められています。現在の制度では、都道府県ごとに最低賃金が決まっていて、それが毎年改訂されています。この最低賃金はアルバイトやパートの場合にも等しく適用されるので、会社はアルバイトだからといって、最低賃金を下回る給料を払うことはできません。もし、労働者が最低賃金を下回って支払いを受けた場合、あとからでも、最低賃金との差額分を請求できます。差額となる額と時間数を掛けたものを請求することができます。もっとも、賃金には2年という消滅時効があるので、2年を経過する前に請求しなければなりません。
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働く時間のルール
労働基準法は、1日の労働時間の上限を8時間、1週間の上限を40時間と定めています(労使協定による例外があります)。会社は労働者に対し、これを超えて働かせた場合、通常の給料より25%増しで賃金を払わなければなりません。これを「割増賃金」といいます。また、夜の10時以降に働いた場合も賃金は25%増しになります(深夜労働)。
労働基準法は、休憩についても定め、1日の労働時間が6時間を超えると45分、8時間を超えると60分の休憩を、勤務時間の途中で与えなければならないとしています。
労働基準法は、休日についてのルールも定めています。労働者には、少なくとも4週間に4日の休日が保障されています。休日に労働した場合には、35%増しの割増賃金が発生します。
なお、労働時間かどうかで問題となることがあります。例えば、休憩時間に、来客や電話の応対を任されていたような場合です。この場合、休憩時間とはいえ、完全には労働から解放されていません。このような場合、労働時間としてカウントするというのが、裁判例となっています。
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労働条件の明示について
労働基準法は、労働条件について、その内容を明確にしてごまかしのきかないようにするために、明示するように義務づけています。
重要な労働条件は、口約束ではなく、書面で明示しなければならないことになっています。書面で明示すべき事項は、①契約期間の有無、期間がある場合にはその長さ、②勤務場所と仕事の内容、③始業時刻・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、残業の有無、④給料の決定・計算・支払いの方法、締切りの時期・支払時期、⑤退職事由や手続き、などです。
もし、明示された労働条件が、実際のものと違う場合には、労働者は契約を即時に解除することができます。
また、労働条件が、その職場で働いている人に共通のものも少なくないので、そうした共通のものは、「就業規則」に記載し、その内容が労働者にすぐにわかるような状況に置かれていなければなりません。
さらに、労働条件の明示は、求人の段階でも義務づけられています。虚偽の条件を記載した募集広告は違法です。
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労働条件の不利益変更について
例えば、会社が労働者の意向も聞かずに一方的に給料を下げたとしたらどうでしょうか。「労働条件の明示について」で説明したとおり、給料など重要な労働条件は、書面で明示しなければなりません。これを勝手に変更し、引き下げることはできません。
もっとも、給料等労働条件が就業規則で統一的に決まっているときには、必ずしもあてはまりません。
就業規則で定められている労働条件が引き下げられた場合、それが労働者に周知されていて、変更の内容が合理的であれば、労働者が同意していなくても、それに従わなければなりません(労働契約法10条)。変更の際には、労働組合等の代表者の意見を聞く手続きが必要です。
このように、就業規則で労働条件を変更できるのは、就業規則は労働条件を統一的に定めるものなので、労働者一人ひとりの同意がなければ変更できないとすると、不都合が生じるからです。
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懲戒処分について
労働者が何か不始末をした場合、処分を受けることがあります。この処分を懲戒処分といいます。
懲戒処分を重い順に並べると、①懲戒解雇、②諭旨退職、③出勤停止、④減給処分、⑤戒告・けん責、となります。多くの会社で、上記懲戒処分を就業規則で定めています。最も重い懲戒解雇は、諭旨退職と違って、退職金が出ないといった不利益が課せられます。また、減給処分については、労働基準法で減給額の上限が定められています。
以上のとおり、懲戒処分は労働者にとって過酷な制度ですから、その利益を守るため、規制がかけられています。
まず、懲戒処分はどのようなことをすればどのような処分を受けるのか、あらかじめ就業規則に定めていなければなりません。
また、懲戒処分を課すにあたっては、労働者の言い分を聞いいたりするなど、適正な手続きが必要です。
さらに、会社が下した処分が、労働者のやった行為に比べて重すぎる場合には、懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。
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解雇について
まず、労働契約の期間が決まっている場合、労働者の方から会社を辞めることも、会社が労働者をやめさせることもできません。やむを得ない事由があるなど例外的な場合だけしか、辞められません。
一方で、契約期間が決まっていない場合、労働者の方からは、2週間の事前通告をしておきさえすれば、いつでも辞めることができます。会社の方から労働者を辞めさせる(解雇)には、30日前に事前の通告をするか(解雇予告)、30日分の手当てを支払わなければなりません(解雇予告手当)。さらに、会社の解雇が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ときには無効です(労働契約法16条)。要するに、解雇には正当な理由が必要ということです。また、契約が何回も更新されていて、次回も契約が継続すると労働者が期待するのが当然といえるくらいになっている場合、契約を打ち切るいわゆる「雇止め」解雇と同視されるので、正当な理由がなければ辞めさせることが来ません(雇止めの制限)。
以上のとおり、労働者の雇用は解雇が厳しく制限されることで、ある程度守られています。
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会社が経営破たんした場合について
会社の経営が悪化して、店を閉めるなど休業する場合、労働者の給料はどうなるのでしょうか。
労働基準法は、会社の責任による休業の場合、労働者は平均賃金の6割がもらえるとしています。平均賃金とは過去3か月分の賃金の平均です。
しかし、会社が倒産してしまった場合、未払いの給料や退職金はどうなるってしまうのでしょうか。給料は労働債権として優先的に扱われるものの、会社の資産がない状態では、結局十分な支払いは受けられません。
そこで、このような労働者の不利益を少しでも軽減するため、「賃金の支払の確保等に関する法律」という法律が制定されており、政府によって未払い賃金が立て替え払いしてもらえます。この制度の適用には、いろいろな要件があり、また全額立て替えてもらえるわけではありませんが、これにより労働者の生活がある程度保障されることになります。労働基準監督署が問い合わせを受けてくれます。
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労働時間について
労働基準法32条は、労働時間の上限について、原則、1日8時間、1週間40時間と定めています。これが法定労働時間になります。
もっとも、労働時間と、事業所での拘束時間とは違います。たとえば、事業所での拘束時間が9時間でも、1時間の休憩時間が取られていれば、労働時間は8時間となり、法定労働時間の範囲内となります。この場合、1週間のうち、2日間休日があれば、1週間の労働時間も40時間ですから、法定労働時間の範囲内ということになります。
会社としては、法定労働時間の範囲内で、所定労働時間を定める必要があります。
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時間外労働について
法律で労働時間の上限が定められているのはすでに述べました。
では、それを超えて残業(時間外労働)をさせた場合どうなるのでしょうか?
まず、残業を行わせるには、労使協定の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。これをしないと刑事責任を問われる危険があります。
さらに、使用者が労働者に法定労働時間を超えて労働(残業)させた場合には、残業時間に応じた割増賃金の支払いが必要となります。その支払いを怠れば、民事訴訟や労働審判によりその支払いを求められることになります。
会社としては、労働者に残業をさせた場合、上記のルールを守る必要があります。
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割増賃金について
時間外労働には割増賃金を支払う必要があるのはすでに述べました。
労働基準法37条は、時間外労働等に対して、割増賃金の支払いをしなければならないことが規定されています。
時間外労働については125%以上、休日労働については、135%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
さらに、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)に対しては、25%以上の加算をしなければなりません。
具体的な計算方法については、労働基準法施行規則19条が、時間単価の計算方法を規定していますのでそれに従わなければなりません。
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付加金とは
労働基準法114条は、同法が定める割増賃金を支払わなかった使用者に対し、裁判所がその制裁として未払いの賃金の他にこれと同一額の金員の支払いを命じることができると規定しています。この金員を付加金といいます。
たとえば、裁判上、100万円の割増賃金の不払いが認められた場合には、それとは別に100万円の付加金の支払いを命じることができるのです。この場合、会社に対し、合計で200万円の支払いを命じることができるということです。
付加金の制裁は裁判所の裁量ですので、課される可能性があるということですが、会社としてはこのような制裁があるのをよく理解して、労働時間の管理を行う必要があるでしょう。
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遅延損害金とは
賃金の支払いが遅れた会社は、法定利率に従い遅延損害金の支払いをしなければなりません。遅延損害金は、支払日の翌日から発生します。
ですから、賃金の支払いを遅らせた会社は、未払いの賃金額だけ支払うだけではありませんので注意が必要です。支払いが滞った期間分だけ、遅延損害金の支払義務があるのです。
さらに、労働者が退職した場合、その労働者に対しては、退職した日の翌日から14.6%の割合で計算した遅延損害金を支払わなければなりません。
賃金の不払いには、厳しいペナルティーがあることを会社はよく理解しなければなりません。
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労働時間の範囲
労働者は、労働時間と休憩時間を合わせた時間を事業所で過ごします。この場合に、どこまでが労働時間にあたるかについて難しい問題があります。
裁判例では、「労働時間」のことを、労働者が使用者(会社)の指揮監督のもとにある時間と定義しています。もっとも、具体的にどの範囲が労働時間なのかを判断するのはしばしば裁判上も問題となります。
例えば、来客や電話の当番をする労働者の手待時間や、警備員が巡回の合間に取る仮眠時間について、労働時間かどうかによって割増賃金の額が変わってきます。
労働時間かどうかは、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならないか、労働者に自由利用が保障されているか、事業所からの外出は可能か、等を考慮して事例に応じた判断が必要となります。
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変形労働時間制について
使用者は、法定労働時間の範囲内で労働時間を設定します。しかし、業種によっては、期間中の繁閑の差があるような場合に不都合となります。そこで、原則となる法定労働時間を変形させて、労働時間をコントロールするのが認められています。変形労働時間制は、期間の違いによって、1年単位、1カ月単位、1週間単位に分けられます。
もっとも利用されている1カ月単位の変形労働時間制では、変形期間を平均して、1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間を超えないようにしなければなりません。また、事前に労働日ごとの労働時間を特定する必要があります。これについて、就業規則で記載するか、労使協定を締結しなければなりません。
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フレックスタイム制について
フレックスタイム制度は、始業と終業の時刻の両方を労働者の自由な決定に委ねる、という制度です。もっとも、この制度を採用しても、使用者は、各日各週の労働時間を把握しておく必要があります。
また、コアタイム(必ず労働しなければならない時間)やフレキシブルタイム(時間帯の任意の時間に出勤・退勤ができる時間、コアタイムの前後に設定される)を定めることもできます。
フレキシブルタイム制は、1カ月単位の変形労働時間制と違い、就業規則と労使協定の両方への記載が必要になります。
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休憩時間
労働基準法34条1項は、「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と定めています。
休憩時間は、労働時間の途中に付与するだけでなく、原則として一斉に与えなければならないとされています(労使協定で定めることにより例外が認められる(同条2項)。)。
また、同条3項は、使用者は休憩時間を自由に利用させなければならないと規定しています。自由に利用できないような拘束性のある時間である場合、休憩時間とはいえません。
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休日
労働基準法35条1項では、使用者は、毎週1回の休日を与えなければならないと規定しています。日曜日や祝日が休日になるとは規定していません(週休2日も法の定めるところではありません)。休日は、歴日の午前0時から午後12時までの休業をいいます。
もっとも、同条2項は、4週間を通じ4日以上の休日を与えることでもいい、としています。この制度のことを、「変形週休制」といいます。この制度を採用する場合は、4週間の起算日を明らかにしておく必要があります。起算日から区切った4週間ごとに4日以上の休日を与えればよいのです。
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