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遺産全部を一人に集中させるには... 遺留分に関する問題
複数いる相続人のうち一人にだけ遺産すべてを継がせたいという相談はよくあります。
しかし、相続人が複数いて、それが兄弟姉妹の場合でないなら、簡単にはいきません。なぜなら、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があるので、遺言をしても一人にだけ相続財産を独占させることができないからです。遺留分とは簡単にいうと、兄弟姉妹以外の相続人に法で認められた相続財産に対する最低限の取り分です。遺留分を侵害する遺言がある場合、遺留分のある相続人は遺留分減殺請求をすることで、法定された最低限の持ち分を取り戻すことができるのです。
仮に、相続人が二人だけで、一人が浪費家であるとか乱暴者であるとかいう事情がある場合、その者を相続人から廃除することで、もう一人に相続財産を集中させることもありえますが、あくまで、そのような事情がある場合だけですし、家庭裁判所の厳格な手続きを踏まなければ廃除はできません。
そこで、他の相続人に遺留分を放棄してもらうという方法が考えられます。遺留分は、相続が始まる前でも放棄が可能です。この点相続放棄が相続開始前にはできないのとは異なります。ただし、相続開始前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可を受ける必要があります。不当な圧力を排除し自由な意思で遺留分の放棄をさせるためです。
もっとも、他の相続人に遺留分を放棄してもらったとしても、遺留分を放棄した相続人は相続資格を失いません。ですから、相続財産を一人に集中させるには、そのような内容(一人に遺産をすべて与える内容)の遺言をしておかなければなりません。遺留分の放棄と遺言はセットでしておかないと遺産を集中させる目的は達成できないのです。
ただし、この方法でも、遺留分の放棄は各相続人が自由に選ぶことができるのですから、常にうまくいくわけではありません。
遺留分制度は、相続人の生活保障を一律に実現する有意義な制度ではあります。しかし、一方で、遺産を一人の相続人に継がせる必要性が強い場合(家業を承継させる場合等)には上記のような問題点があります。遺留分制度は適度に修正される余地があるでしょう。今後、立法による変更が(程度はどうあれ)あるのかもしれません。
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内縁の夫婦と相続上の問題について
内縁の夫婦に関する、相続上の問題点についてです。
配偶者は常に相続人になります。しかし、ここでいう配偶者とは、法律上の配偶者ですので、入籍していない内縁の夫婦は含まれません。内縁の妻(あるいは夫)には相続権がありません。例えば、内縁の夫名義の自宅があるが、内縁の夫が死亡し相続人としてその兄弟姉妹がいるような場合、自宅は相続人である兄弟姉妹が相続します。内縁の妻が自宅に住めなくなる可能性も出てくるので困ったことになります。
以上のような問題にどう対処すべきでしょうか。
まずは、早めに入籍するというのが考えられます。しかし、長年にわたり内縁関係が続いていたような場合、入籍に躊躇することもあるでしょう。
生前に自宅の名義を変えておくというのも考えられます。しかし、名義の移転には手間や費用(税金等)がかかることから、名義を変えないまま放置されることも多いでしょう。
そこで、上の例でいえば、自宅を(内縁の妻に)譲る内容の遺言を夫に書いてもらうのが、現実的な対策となります。遺言により、死後の煩わしい問題を防ぐのです(兄弟姉妹には遺留分がありません)。
例を変えて、内縁の夫に相続人が誰もいない場合はどうでしょうか。
この場合、内縁の妻は、特別縁故者として、相続財産の全部あるいは一部を受け取ることが可能です。その場合、内縁の妻の方で、裁判所に対し相続財産管理人の選任を求める申し立ての手続きが必要になります。手間や費用を考えるなら、この例でも、遺言を利用するのが良いでしょう。
ちなみに、遺族年金の受給に関しては、「配偶者」の中に内縁関係を含みますので、内縁の妻であっても年金は受給できます。死亡退職金についても、就業規則によっては、内縁の妻が受給できることがあります。
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再婚した場合に起こりうる相続の問題
例えば、子供のいる夫婦が離婚し、その後夫が再婚してから死亡したとします。
この場合、前妻に相続権はありません。一方、前妻との間にできた子には相続権があります。したがって、配偶者である後妻と前妻との間の子が、相続人となります。
しかし、再婚した夫が財産を後妻に生前贈与するとか、遺言で財産のすべてを与えることはありえます。前妻との間の子とは、前妻との離婚後関係が疎遠となることが多いので、子供に対する配慮をしなくなるのです。子が遺留分(相続において認められた最低限の取り分)を侵害されている場合、遺留分減殺請求をすることになりますが、疎遠になった関係が災いし、遺留分を侵害された事実に気付くのは困難です。
さらに、上の例で、後妻との間にも子ができた、あるいは後妻の連れ子と養子縁組した場合はどうでしょうか。
この場合、前妻の子も後妻の子も同じく相続人としての子ですから、相続権があり相続分の割合も同じです。
しかし、上記の通り、離婚後前妻との間の子とは疎遠になり、後妻との間の子(あるいは養子)との関係は緊密になることから、後妻との間の子に対してだけ、財産を与える生前ないし遺言による処分をすることがありえます。遺留分によって、前妻の子がある程度守られるのは既にふれたとおりですが、やはり、遺留分を侵害する事実には気づきにくいものです。
以上の問題をいくらかでもなくすために、前妻の子は(両親の離婚後も)父親と連絡を取り合うような関係を継続することが必要になるでしょう。
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借家に関する相続の問題点... 賃料と相続
借家権も財産権の一種ですから相続の対象になります。
しかし、借家権は家を賃借しそこに住むという居住権の側面だけでなく、賃料を支払うという意味では債務を伴った法律関係です。
相続人が複数いる共同相続の場合、賃料と相続との関係は複雑な問題となります。
まず、未払いの賃料が残っている状態で相続が開始した場合です。
未払いの賃料について、判例(裁判所の考え方)は、分割可能な債務であるとして(金銭債務は数量的に分割可能であるので)、相続人それぞれが、相続分に応じ債務を負担するとしています。例えば、未払いの賃料が10万円あって、賃借人の子供2人が相続した場合、それぞれ5万円ずつ負担するということです。
つぎに、相続開始後遺産分割が終了するまでの賃料債務についてですが、判例は、不可分な債務としています(債務者全員がそれぞれ全額負担する債務としています。)。例えば、相続開始後遺産分割まで3か月かかったとして、その間の賃料が15万円という場合、相続人はそれぞれ15万円全額の賃料を負担します(もちろん賃料を支払った特定の相続人はほかの相続人に相当分の支払いを求めることはできます。)
最後に、遺産分割により特定の相続人が借家権を相続した場合です。
この場合、遺産分割後、当該相続人が一人で賃料債務を負担します。
以上のとおり、共同相続に際して、相続開始時に未払いがある場合の賃料、相続開始後遺産分割終了までの賃料、遺産分割終了後の賃料、について、それぞれ扱いが異なるので注意が必要です。
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相続人の中に特別の利益を受けている人がいる場合... 特別受益について
父親が2000万円の預金を遺産として残し死亡し、その子供2人が相続人になるとしましょう。このとき、そのうちの一人だけが、父親の生前に生計の資本として贈与を受けていた場合、例えば、お店の開業資金として1000万円の贈与を受けていた場合、そのまま、預金2000万円だけを遺産として遺産分割すればよいのでしょうか。
この例で、被相続人死亡時の遺産だけを分割対象とすれば、贈与を受けた相続人と受けていない相続人との間に不公平が生じます。これに対処するのが、特別受益の制度です。この制度により、遺贈あるいは婚姻または生計の資本として贈与を受けた相続人がいる場合、その分を考慮して遺産分割をします。上の例でいえば、遺産に生前贈与された1000万円を加え、合計3000万円を分割の対象とします。子供2人の相続分はそれぞれ1500万円(3000万円の2分の1ずつ)となり、生前贈与を受けた子については、ここからすでに贈与として受けている1000万円を差し引いて、500万円が具体的相続分となります。
このように、特別受益の制度は相続人間の公平を図る制度です。そして、何が特別受益にあたるかは、贈与の額、遺産総額、他の相続人との公平、被相続人の経済状況などを考慮して判断されます。
もっとも、特別受益にあたるかどうかの判断が難しいだけでなく、古い話をたどって贈与とその額を認定しなければならないので、証拠が十分でない事例が多くなります。つまり、家庭裁判所で特別受益を主張しても簡単には認められません。相続人は、特別受益を主張するのに備え、証拠を保全する必要がありますが、そう簡単にはいかないのが実情です。
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財産の維持・増加に特別の寄与をした場合... 寄与分について
例えば、父親が2000万円の預金を遺産として残し死亡し、その子供2人が相続人になるとしましょう。
子供のうち一人は、勤めていた会社を辞め父親が死亡する10年前から、病気の父親に代わって家業を守ってきた、というような事情がある場合、相続人である子供2人は、相続分が同じなので均等に預金を相続するというのでは不公平ではないでしょうか。
このような問題に対処するため、民法は寄与分の制度を設けました。すなわち、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者(寄与者)があるときは、寄与分を引いた財産を相続財産とし、寄与者には相続分と寄与分を合わせた財産を取得させるとしたのです。
もっとも、寄与分が認められるのは、特別の寄与があったと評価される場合ですので、通常のものでは足りず、顕著な貢献でなければなりません。また、被相続人の財産の維持・増加と因果関係がなければなりません。寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分の割合は決まります。相続人間で遺産分割協議の際話し合い、寄与分も合意できれば問題はないでしょう。しかし、合意できないと、家庭裁判所で調停ないし審判しなければなりません。寄与分が裁判所に持ち込まれた結果、遺産分割が紛糾することはよくあります。
そこで、遺産分割の紛糾を回避するために、上の例でいえば、父親に生前に寄与分を考慮した遺言を書いてもらうのがよいでしょう。相続人全員が納得するような遺言であれば、円滑な相続が実現することでしょう。
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養子縁組と相続
養子縁組を行うと、養子は養親の嫡出子となり(民法809条)、養親との間に法定血族関係が発生します。したがって、養子は養親の子として相続分を取得します。当然、子として遺留分も取得します。
ところで、養子の子は、養親を代襲相続できるのでしょうか。
養子と養親の血族関係は縁組の時から効果が生じます。縁組前に、養子に子がいても、養親の孫とはなりませんので、その子は代襲相続できません。
一方、縁組後に養子に子ができた場合、その子は、養親の孫となります。したがって、代襲相続もできます。
また、養子縁組によって、養子と実親との親子関係は消滅しないので、養子は実親の相続権も有します。
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一部財産の遺言
遺言する際、すべての遺産について処分するのが通常です。
しかし、遺言で、すべての遺産について処分を決める必要はありませんので、一部の遺産のみについて処分することも可能です。特定の遺産については特定の相続人に取得してもらいたい場合や、多くの財産で取得者を決める必要がない場合には、このような遺言は作成することになるでしょう。
遺言で処分を定めていない遺産については、相続人間で遺産分割協議を行うことになりますので、遺産分割協議がスムーズに行えない事情があるような場合には、すべての遺産について遺言しておく方が無難でしょう。
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生命保険と特別受益
死亡による生命保険金は、受取人の固有の財産であって相続財産には含まれないというのが裁判所の考え方です。では、特定の相続人が保険金を取得した場合に、その保険金は特別受益にならないのでしょうか。
これについて最高裁は、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほど著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合には特別受益に準じて扱う、としています。
生命保険金は原則として特別受益に該当しないとしつつも、特段の事情があるような場合には、それに準じた取り扱いをすることを認めています。なお、特別受益は遺留分算定の基礎に含まれますので、遺留分減殺の対象となります。
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相続人資格の重複
例えば、祖父母が孫を養子にし、子が死亡した後に祖父母が死亡した場合、孫は、養子としての相続分(子としての相続分)と、子の代襲相続人としての相続分(代襲による相続分)の両方を取得できるのでしょうか?相続資格の重複の問題となります。
この場合についての考え方は分かれていますが、登記上の取り扱いでは両者の相続分の取得を認めています。
他に、養子が実子と婚姻し、養子が死亡した場合、養子の相続において、実子は、配偶者としての相続分と兄弟姉妹としての相続分とが重複します。この場合についても考え方は分かれていますが、登記上の取り扱いでは配偶者としての相続分のみ認めているようです。
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遺産分割協議がまとまらない場合
遺言がない場合、相続人は遺産分割協議をしなければ、不動産名義変更も、預貯金の払い戻しもできません。しかし、遺産分割協議がスムーズに進むとは限りません。話し合いがまとまらない場合もありえます。
こういう場合にも、相続の手続きができるように、遺産分割調停という制度と、遺産分割審判という制度が用意されています。
調停は、調停委員という第三者を交えて話し合いをするものです。
調停でも話し合いがまとまらなければ調停は不成立となり、審判という手続きに移行します。
審判は、裁判所の決定です。裁判所が分割内容を決めますが、基本的に法定の相続分に従って決めます。ただ、不動産も法定相続分に応じて共有となる可能性が高いので、それでは困るという相続人は、代償金を払うなどして話し合いをまとめる方に努力する必要があるでしょう。
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死後の事務委任について
死後の事務委任とは、自分が亡くなった後の諸手続きを他人に委託する契約です。
死後の事務委任が、亡くなった後の葬儀や、納骨、遺品の整理などの事務を他人に委託する契約なのに対し、遺言は、遺産を誰にどのように引き継がせるかを遺言者が一方的に決めるものです。死後の事務委任契約は、内容が明確で、実現可能なものであれば有効です。
死後の事務委任契約は、相続人がいない場合や、相続人と長年疎遠である場合などに役に立つでしょう。遺言ほど一般に浸透していない制度ですが、今後は遺言や、生前の見守り契約とセットで作成する人も多くなるかもしれません。
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葬儀費用の負担者
葬儀の費用をだれが負担すべきかについて法律に規定がなく、見解は分かれています。①遺産から支出すべきとする見解と、②喪主が負担すべきとする見解があります。現在②が有力です。
もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産から葬儀費用を支出しても大丈夫です。当然に遺産から支出してよいわけではないということです。
実際、高すぎない葬儀費用であれば、遺産から支出しても、他の相続人から異議が出ることは少ないので、結果的には、遺産から支出し、相続人の合意があるとして処理されることも多いでしょう。
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親の預金の使い込み
例えば、子供のうち一人が親の通帳やカードを管理した結果、使い込みがなされた場合、どうすべきでしょうか。
結論からいうと、これは、遺産の分割の問題ではなく、使い込んだ人に対する損害賠償や不当利得という形で請求することになります。
もっとも、引き出されたお金が、親の医療費や介護費、生活費などに使われている場合には、違法ではありません。これらの費用は、本来、親自身が負担すべき費用だからです。
したがって、親のために使われているのかどうかが問題となります。引き出したお金が親の生活に必要な費用であるのを証明するためには、通帳の記録とともに、領収証を取っておくのが有効です。
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認知症と遺言
例えば、認知症あるいはその疑いがある親が、子のうち一人だけに有利な遺言をしている場合、他の子たちは遺言の効力を争うことができるのでしょうか。
結論からいえば、認知症の場合でも遺言はできます。ただ、遺言能力がなければ遺言は無効です。遺言能力とは、遺言の結果を理解できるだけの判断能力ないし認識能力のことです。
遺言能力の欠如を理由に裁判するには、カルテなどの医療記録を取り寄せて、遺言時の状況を個別的に判断しなければなりません。裁判の結果が出るまでに長い時間を要するのが通常です。
相続人全員が同意のもと、遺言とは別の内容の遺産分割協議をすることはできます。そうでないと、上記のとおり、遺言能力を問題とした裁判は難しいものとなります。
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遺産分割と共有不動産
遺産分割の際、不動産を、相続人の共有にするのはお勧めできません。
というのも、その後、不動産を売却するにあたり、共有名義人全員の同意が必要となるからです。自分の共有持分を売却するのに、他の共有者の同意はいりませんが、共有持ち分を買い取るのは他の共有者以外に通常考えられません。
トラブルを回避するには、遺産分割の際、他の相続人に代償金を払い、単独名義にする方法が考えられます。また、必ずしも使う当てのない不動産であるなら、不動産を売却して、その代金を分配する方法が考えられます。
共有とするのは、後々トラブルになるので避けるべきでしょう。
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相続放棄の注意点
相続放棄をするなら、相続財産に手を付けないようにしましょう。法律上、相続財産を処分したり消費したりすると、原則として、相続放棄ができなくなるからです。
もっとも、①相続財産から葬儀費用を支払った、②預金を解約し仏壇や墓石を購入した、③価値のないものを形見分けした、というような場合には、相続放棄ができるとした、裁判例があります。これに対し、①預金を解約して借金の弁済にあてる、②相続財産中の売掛債権を取り立てる、などした場合、裁判所は、相続放棄を認めていません。
相続放棄ができるかどうかは、個別の具体的事情によって、裁判所が判断することになるので、相続放棄を考えているなら、相続財産に手を付けないようにした方が良いでしょう。
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特別縁故者について
相続人の不存在が確定すると、相続財産は国庫に帰属します。
もっとも、相続人不存在が確定した後、特別縁故者から家庭裁判所に請求があると、裁判所は、清算後残存する相続財産の全部あるいは一部を特別縁故者に分与することができます。
特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養監護に努めた者、そのほか被相続人と特別の縁故があった者、をいいます。内縁の配偶者などが典型例です。
この請求は、相続人不存在が確定した期間満了後3カ月以内にしなければなりません。
特別縁故者がいない場合、あるいは相続財産全部が特別縁故者に分与されない場合には、相続財産は国庫に帰属します。
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